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Getty Museum (ゲティ美術館) で開催中の展覧会 ”Breaking News: Turning the Lens on Mass Media”(2016年12月20日-2017年4月30日 @ Getty Museum)は、新聞や雑誌、テレビのニュース番組といったメディアからインスピレーションを得て作品を制作したアーティストを取り上げている。
1960年代のベトナム戦争から、2000年代の対テロ戦争と呼ばれる近年に至るまでの50年間のマスメディア文化を、アーティストたちはどのように捉えてきたのかに焦点を当てている。政治的なメッセージが強い作品が並ぶ中で、特に機知や皮肉、ユーモアに富んだ作品をいくつか紹介したい。 まずはMartha Rosler (1943- ) の "House Beautiful: Bringing the War Home" (1967) のシリーズから。 今でこそ残酷な映像は報道各社が自主規制しているが、ベトナム戦争時はテレビで残虐極まりない映像がそのままアメリカの各家庭のお茶の間に届けられ「リビングルーム戦争」と呼ばれた。 アメリカが介入した戦争にも関わらず、遠く離れたベトナムの地で激戦が繰り広げられる様子を、一家団欒でテレビを囲んで見入る豊かなアメリカ中流階級の当事者意識の無さ、現実味の欠如に疑問を持ったRoslerは、アメリカの写真雑誌Life誌からベトナム戦争の写真と、住宅インテリアの広告を切り抜いてコラージュ作品を制作した。雑誌の隣り合わせたページに戦禍の写真と、贅を凝らした家具やインテリアの広告が並列されることの矛盾を鋭く突いた作品だ。 テレビ映像からベトナム戦争の真実を知り、衝撃を受けた多くのアメリカ国民、特に学生・若者たちは戦争を正当化する国の偽善や欺瞞に気づき、反戦運動のうねりが高まった。豊かで安定した生活や、物質主義といったアメリカ中流社会の価値観への反発・批判は1960年代後半のカウンターカルチャー(対抗文化)、ヒッピー文化のムーブメントにつながっていく。 Sarah Charlesworth (1947-2013) の作品Modern Historyのシリーズは各新聞の一面を取り上げ、見出しや記事本文などの文字情報をすべて消して、写真だけを残す処理を施している。 世界中に衝撃を与えた1978年のアルド・モーロ元伊首相の誘拐・殺害事件を元に2つのシリーズから構成されている。 ひとつ目のシリーズはバチカン市庁国が発行する新聞Osservatore Romano (オッセルヴァトーレ・ロマーノ紙) の1978年3月17日 (モーロ元首相が誘拐された翌日)〜5月10日 (ローマ市内で車のトランクの中から死体で発見された翌日) の一面を取り上げ、事件の扱いを検証している。 イタリア全土を揺るがせた事件はしかし、ローマ市内にありながら「イタリアの外国」と称される小さな独立国にとっては、所詮小さな虫の羽音に過ぎないらしい。3月17日の一面にモーロ元首相の顔写真が出たきり、以降の一面を飾るのは人々に祝福を与えるローマ法王の写真一択である。 もうひとつのシリーズは、誘拐犯と目される極左テロ組織が出した「モーロ元首相を殺害して湖の底に沈めた」という手紙(後に偽物による手紙と判明)が公開された翌日1978年4月20日に発行された世界各国の新聞の一面を取り上げている。 まだ凍っているローマ北部の湖を捜索する様子を捉えた写真がLos Angeles Times, New York Timesといった米主要紙、仏紙Le Figaro紙の一面トップに来ている。 しかし、スペインのLa Nacion紙や、ブラジルの地方紙Folha de S.Paulo紙になると、前日のサッカーの試合の写真がイタリアの事件と同等、あるいはそれより大きい扱いになっているところが面白い。 写真の大小や割り付け(レイアウト)で、ニュースの重要度や、各新聞社の判断が一目でわかるというのは新聞業界の常識だが、写真をクロップして一部分を切り出したり、サイズを変えたりすることで生じる情報のヒエラルキーがアートになり得るというのは、ある意味新鮮な驚きである。 Alfredo Jaar (1956- ) はニューヨークを拠点に活動するチリ人アーティストで、メディアがいかに情報や印象を操作し、世論を形成するかを社会批判を込めたアートで訴え続けている。 Untitled (Newsweek) は1994年に起こったルワンダ虐殺のさなかに、17週に渡りNewsweek誌の表紙を写真に撮り、一列に並べて展示。各号の表紙の下には、同じ週にルワンダで起こった出来事、死者数、国連の対応などを併記している。 およそ100日の間に急速な広がりを見せたジェノサイド、死者は80万人から100万人にもなったといわれている。 17週間ルワンダ虐殺を大々的に報じなかったのはNewsweek誌だけではない。国際的なメディアはルワンダでの殺戮を報道せず無視を決め込む。理由としてはジェノサイドに至るまでの様々な要因が複雑に絡み合った経緯を、メディアは正しく認識できず、早期に報道できなかったせいもあるだろう。 アメリカ政府や国連は遠い国の部族衝突に介入することに二の足を踏み、米国内のメディアも状況を把握していたのにも関わらず報道が後手に回り、犠牲者はさらに増えた。 Newsweek誌の中にはルワンダ虐殺を報じたい記者もいたはずだが、経営陣からすると、遠い国のジェノサイドよりも近場のニュースを一面トップで扱った方が雑誌の売り上げが伸びるという判断だったのだろう。 特にO. J. シンプソン事件は3週に渡り特集記事が組まれ、全米の関心事だったのはいうまでもない。 しかも17週目にしてやっとルワンダ虐殺を表紙に取り上げた際も、表紙右上にO. J. シンプソン事件の続報があることをしっかり宣伝し、読者の関心を引きつけている。 O. J. シンプソン事件を追いたい読者心理に乗じて雑誌の売り上げを伸ばしたい気持ちは分かるが、だからといってNewsweek誌が目先の利益に目が眩んでゴシップ雑誌に成り下がる必要はないのだ。 国際情勢を扱うニュース誌としての矜持を見せて欲しかったという思いに突き動かされてAlfredo Jaarも本作品を制作したに違いない。 最後はRobert Heinecken (1931-2006)で締めたい。2014年にHammer Museumで大規模なHeinecken回顧展があったばかりで、Getty Museumも本展企画の段階で把握していたはずだと思うが。 また同じ作品が展示されるのはいささかお腹いっぱいな気分だが、面白い作品なので2つ紹介しておきたい。 1980年代に報道志向が高まり、アメリカではニュース番組が人気を博す。メインキャスターは番組の視聴率も左右する花形的な存在となる。特にその一挙手一投足に視聴者の視線が注がれる女性キャスターに注目したHeineckenは、1986 年の作品TV Newswomen (Faith Daniels and Barbara Walters)でふたりの女性キャスターの顔の表情の似ているシーンをつなげて比較している。 女性キャスターに求められる容姿を体現しているふたり。知的に見えて華があるセミロングのブロンド、ヘアセットも抜かりなく。白のスーツで清潔感を演出、あるいは原色の赤や青のジャケットで意思の強さを主張、ダークカラーの衣装の時は首回りをパールなどのアクセサリーで華やかに見せる。化粧はしっかり濃い目。喋り方や発音などキャスターとして訓練を受けているとはいえ、こうしてふたりの女性キャスターを並べて比べると服装や髪型まで酷似していることに驚く。 さらにHeineckenは、CBSが朝のニュース番組の視聴率挽回のために理想の女性キャスターを探すという架空のストーリーを作り上げ、一部屋の壁3面を使う大掛かりな写真作品を制作する。 一応Docudramaと銘打っているので、登場人物や基本的な事件や出来事は本物なのだが、ストーリーの最初の方はいかにも真面目な話で危うく騙されかけた。男性キャスターと女性キャスターの顔写真を合成して完璧な組み合わせかどうかをCBSの経営陣に判断させる辺りで胡散臭さ満載なのでようやくフィクションの設定だと分かる。男女キャスターの顔写真を重ねて合成した作品につけられた説明がまた可笑しい。 例えばロサンゼルス支局から選出されたブルネット(暗い髪色)のラテン系女性キャスターとの組み合わせについて: 「(アフリカンアメリカ系男性天気キャスター)Steve Baskervilleとの組み合わせは魅力的に映ったが、(白人男性キャスター)Bill Kurtisとの組み合わせは「昨夜一睡もできなかったようなヒドい顔」に見え、花柄ブラウスの着用にこだわる女性キャスターはニューヨークの知的さにそぐわず、経営陣はロサンゼルスでしか通用しないと結論づけた」―― 作品キャプションから抄訳 アジア系女性キャスターと、先に挙げた男性キャスターたちとの組み合わせについては: 「人種の融合に挑むも、古典的なアジア系の特徴が際立ち過ぎて、エキゾチックを狙うもグロテスクに転ぶ。思い込み激しいファンタジーは経営陣に却下される」―― 作品キャプションから抄訳 Heineckenの作品は基本的に単純なアイデアで可笑しみを誘うが、その裏にはジェンダーや人種に対する偏見、テレビや広告が消費者を煽る大量消費社会への批判、マスメディアへの厳しい視点が込められている。 アーティストたちは、写真が意味するところの不確実性、つまりニュースは作為的に選ばれ、操作され、それを取り巻く環境によって異なる解釈が可能になるということを鋭く見抜いて、それぞれ作品に社会批判のメッセージを込めている。 事件、政治、戦争、人種問題といったシリアスな話題すら、鋭い皮肉からゆるいユーモアまで笑いに転換できるセンスに、逆にアーティストたちの強かさと反体制の姿勢、不屈の精神を見て取れる。報道のあり方について考えさせられるのはもちろんのこと、既成の社会体制や価値観に物申すアーティストたちの力強いメッセージを前にして、アートの今日的な役割についても一考させられる見応えある展覧会だ。 展覧会の企画は少なくとも3年前から始まるので、トランプ政権の誕生を予見していたとは思えないが、結果的に時機を得たタイミングでの展覧会となった。トランプ大統領とメディアの対立が鮮明になった今、改めてメディアの社会的役割についての議論が活発になることを期待すると共に、アーティストたちがこの歴史の分岐点とも言える状況に今後どう応えていくのかにも注目したい。
by azzurrotree
| 2017-04-21 01:37
| Photography/写真
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